秘密の地図を描こう
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どうやら、ギルバートがすでに根回しをしていたらしい。
「議長のご指示ならば仕方がないですけどね」
ため息混じりにニコルが言葉を口にする。
「僕としては、するなら卒業間近にしてほしかったですよ」
そうすれば、失敗してもシンを放り出すだけで住んだ。彼はそう続ける。
「でも、まぁ……避けては通れないことだし?」
いつかはキラは通らなければいけない問題だろう、とミゲルもうなずく。
「イザーク達がいる今なら、フォローの方も何とかなるだろう」
ディアッカをそばに置いておけば完璧ではないか。そう言って彼は笑った。
「そういう問題じゃないと思いますが?」
レイはついついそう言ってしまう。
「でも、確かに適任ですね、彼は」
自分達が動けない状況であれば、とニコルがうなずく。
「何よりも、俺たちの中で一番つきあいが長いからな」
一緒に戦ったからなのだろうか――あるいは、彼の友人の《友人以上恋人未満》の存在だからか――割とわがままを言いやすい相手と分類されているらしい。
「個人的には少し気に入りませんが……僕の方がキラよりも年下だ、と言う事実は事実ですから」
年下にも甘えてくれればいいのに、とニコルは言う。
「……そうですね」
確かに、もっと頼ってほしいし、わがままも言ってほしいと思う。そんなことを考えながらレイはうなずいた。
それでも、キラが自分を気にかけてくれていることは間違いない。今はそれだけで我慢しておくべきなのだろうか。
「と言うわけで、キラに話をするしかないだろうな」
何と言ってもギルバートの命令だ。ミゲルが締めくくる。
「と言うことで、誰がその役目をするかだが……」
「自分がします」
即座にレイが言う。
「二人のことをそれぞれ一番よく知っているのは自分ですから」
不本意ではあるが、と彼は続けた。
「確かに、君が一番適任だろうね」
ニコルも同意の言葉を口にする。
「そうなると、後問題なのはタイミングか」
早いほうがいいのだろう。しかし、早すぎてもいけない。
「実地訓練の直前がいいのではありませんか?」
あちらにはキラは同行できない。その間にシンも自分の感情を整理することが可能だろう。
「後は、ディアッカのシフトだが……そのあたりは議長から手を回してもらえばいいか」
「そうですね。それが確実でしょう」
自分達はそばにいられないかもしれない。だから、彼らに押しつけてしまえ……というミゲルの足を踏みつけながらも、ニコルはうなずく。
「ものすごく不本意ですけどね」
一番おいしい役目を譲らなければいけないようで、と彼は続ける。
「じゃ、アカデミーの教官を辞めるか?」
「もちろん、いやですよ。そんなことをすれば、キラのそばにいられなくなります」
後で挽回すればいいだけのことだ。そう言って彼は笑った。
「……ニコル……」
「イザーク達は任務がありますから、チャンスはたくさんあります」
ふふふ、と笑う彼に感歎するしかない。
「そうですね。万が一の時にはキラさんを慰めればいいだけです」
その役目は他の誰にも渡さない。
「後は、シンが馬鹿なことをしないように気をつけることですね」
一番不安なのはそれだ。
「後、あいつ、現地任官だと行っていたからな。それについてどうごまかすかだ」
「それは簡単ですよ。三隻同盟が結成されてからバルトフェルド隊に編入されたで十分です」
命令系統の関係で、と続けるニコルの言葉が一番無難な答えなのではないか。
「さすが、と言うべき何だろうが……」
何か釈然としない。ミゲルの言葉も納得できる。しかし、それを指摘する勇気はレイにはなかった。同時に、こんなメンバーを部下に持っていたラウには感心する。そうも心の中で呟いていた。